2025.10.25
「僕のショーではない。彼らのショーだ。僕は彼らを助けるだけだ」
レブロン・ジェームズとルカ・ドンチッチというスーパースターを抱えるロサンゼルス・レイカーズ。「彼らとプレーする中でアグレッシブになるのは難しくないか? どういうところで自然にアグレッシブになれると思うか? また、どういうところで、自分は控えなきゃいけないと思うか?」
そう聞かれた八村塁は、そのように答えた。
そして続けた。
「でも、僕にとっては“チーム”であり、もっとアグレッシブにやらなければならない。だから彼ら(コーチ陣)は、特に長いシーズンの中で、いつも僕にアグレッシブになれと言う。レブロンにとって今シーズンは23年目のシーズンで、ずっとできるわけではないからね。だから、彼がそうなった時は僕がステップアップし、すべてをカバーしなければならない。僕の年齢やここまで積み上げてきたキャリアから、オフェンスにおいてもディフェンスにおいても試合全体でアグレッシブになり、カバーできる選手になれる」
自信に満ちた表情で言った。

名門レイカーズにあって、日に日に存在感を高める八村 [写真]=Getty Images
その4日前のことだった。今シーズンのトレーニングキャンプ開始を前にメディア対応したJJ・レディックヘッドコーチに、すでに練習施設で練習していた八村に昨シーズンまでと何か違いがあるかと尋ねると、「塁は毎日一緒にいることで喜びを感じられる人間だと表現するよ。彼といると、常に喜びがある。そして、ここ数週間で見たものは、ますます高いレベルの自信だ。このリーグにおいて、彼のことはまだ若い選手として見なければならないと思うが、若い選手というのは、自信が高まれば喜びが増し、生産性が高まり、より成果を出せるようになる」と笑みを浮かべた。
2019年にワシントン・ウィザーズから1巡目全体の9位で指名されてから今シーズンで7年目を迎える八村。3年目にはメンタル的な問題でシーズン最初の39試合を離脱したが、そういった苦しい経験も乗り越えてこその7年目。ウィザーズ時代は、ブラッドリー・ビール(ロサンゼルス・クリッパーズ)、ラッセル・ウェストブルック(サクラメント・キングス)というスター選手から多くを学び、激しさの度合いが大きく増すポストシーズンの舞台も初経験した。そしてレイカーズに加わってからは、ジェームズらスーパースターとともに、常に世界中からの期待と注目を集める大都市のフランチャイズを背負ってプレーしてきた。
東の名門ボストン・セルティックスにルーキー時から9シーズン所属し、2チームへの移籍を経て今シーズンからレイカーズに加わったマーカス・スマートは、レイカーズと契約後、「最も歴史のあるフランチャイズ、パープル&ゴールドのユニフォームを着てここにいることは夢のよう。(2018年に他界した)母にも見せたかった」と語った。ドンチッチもレイカーズと延長契約を結んだ会見で「多くの偉大な選手がプレーしてきたこの球団でプレーできることを光栄に思う」と話していた。
NBA選手であれば、誰もがプレーしたいと思うチームの一つであるレイカーズの一員となることは特別である反面、常に勝利を期待される使命感や、古くから “ショー”と言われる試合で無様なプレーを見せるわけにはいかないというプレッシャーがつきまとう。今夏、自らが契約を結ぶ “ジョーダンブランド”の日本で行われたトークショーで、八村は「レイカーズでプレーするということは、すごく重みがある」と話していたが、そんな中で切磋琢磨し、ロブ・ペリンカジェネラルマネジャーに「トレードでここに来て以来、塁は毎年のようにどこかを少しずつ上達させている。彼の精神の中で自信が芽生え、ここにもすっかり慣れていると感じる。今シーズンは、また一つ飛躍を見せると思うし、彼はこのチームにとって、本当に、本当に重要な選手」と言わせるほど成果を見せてきた。
今オフ、2021−22シーズンの年間最優秀守備選手に輝いたスマートを獲得したことにより、レイカーズの今シーズンのスターターは、八村からスマートに変わるのではないかと見られていた。そのため、八村が記者からスターターにこだわりがあるかどうかを尋ねられたことが2度ほどあった。すると八村は、コーチの判断に従うことを示唆しながら、「僕はこのチームでケミストリーを築いてきた。もう2~3年、スターターを務めてきた」「チームは何度か他にも選手を取ってきたが、僕がスターターだった」と強気な姿勢は崩さなかった。自らの能力に自信があるからだ。

成長を続ける八村へ首脳陣からの評価は高い [写真]=Getty Images
八村は昨年、日本代表活動の在り方について、日本協会への疑問を呈した。その主張も影響し、9月下旬にBリーグの島田慎二チェアマンが新会長に就任。日本協会は新体制になった。八村は、島田氏がまだ正式に会長になる前の8月に会談し「プレーヤーファーストの精神」を要望、「そこが一番大事じゃないかなと思う。大きい舞台でやっていればやっているほど、僕はそういうのを感じるので。ゴンザガ大のときもそうですし、NBAに入っても、やっぱりいいチーム、団体というのは、プレーヤーファーストという精神があるからこそだと思う」と話した。
謙虚さが先に出てしまう日本では、日本代表のユニフォームを着られることに感謝し、文句は言わないという傾向にあるのかも知れない。または、誰もがその環境に本当に満足していることも考えられる。だが、世界最高峰で上を目指して戦っている八村には、強くなるために必要な自身の考えがある。大学の時から何度も突き落とされながら這い上がって来られたのは、同じ目標に向かっているからこそ、何よりも自分(選手)の立場を尊重し、「このチームのために頑張りたい」と思わせてくれる人や環境に恵まれたから。そして、そういうチームこそ選手が同じ目標に向かってモチベ―ションを高め、努力できるのだということを実感してきた。
「コーチや上の理事の人とかからそういうものを感じないと、選手からしても『何をやってんだ』って感じで練習がパッとしない時とかずっとありました」
英語で、“on the same page(認識が一致している)”という言葉がある。八村は日本代表で、選手たちと上に立つ者の認識がずれていることが、選手のやる気に表れていると感じたのだろう。
「僕はもともと代表でずっとやりたいと思っている。 それは変わっていない」と八村。ただ「日本にいる選手たちも含めて、やるぞっていう気になるような団体にしないと、集まっても時間の無駄なんで」ときっぱりと言い、新体制となった日本協会が「これからどうするか」を静観する姿勢を示した。
声をあげれば批判が出ることも覚悟の上で主張した。この勇気ある行動もバスケットボール選手として膨れ上がった自信が、大きな部分を占めているのではないだろうか。

チームのリーダーとしての自覚もアップ [写真]=Getty Images
レイカーズに話を戻そう。
状況は違うが、実は八村はコーチらから今シーズンもっとボーカルになる(声を出す)ことも要求されているそうで、「今シーズンは僕にとって7年目。新加入選手も多いから、コーチたちは僕にもっとボーカルになり、新しい選手たちとコミュニケーションを取ることを望んでいる」と言う。つまり、リーダー的な役割も求められてきたということだ。
レイカーズは開幕まで2週間を切った今月9日、ジェームズが坐骨神経痛で3~4週間離脱する見通しであることを明かした。もともと練習でも、ジェームズのカバーをする選手としてコーチから頼られていることを「感じる」と話す八村。冒頭でも記したように12月に41歳になるジェームズの穴を埋めていくことは、自らの任務だと悟って取り組んできた。
「レブロンはもう一度優勝したいと思っている。彼にはそんなに(現役の)時間は残されていない。僕らが助けなければならない」。毎年オフに練習をともにしている“師匠”であるジェームズと優勝トロフィーを掴みたいという気持ちは強い。
出場した5試合すべてでスターター出場したプレシーズンゲームは、4試合で16点以上を記録するなど攻撃力を発揮。ただリバウンドが平均2.6と課題も残り、本人も「レブロンがいようがいまいが、僕はリバウンドを取らなければならない。(チームで)リバウンドを取れるのは自分にならなければいけない」と厳しい口調で言った。
「攻防ともにアグレッシブにいく。それがシーズンを通しての鍵だ」
自信を高めた八村の7年目の“ショー”が、いよいよ始まる。
文=山脇明子
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