2026.03.17
ロサンゼルス・レイカーズのクリプト・ドットコム・アリーナで3月13日(現地時間12日)に行われたレイカーズ対シカゴ・ブルズ(以降ブルズ)。伝統のある球団同士の対戦で、ブルズの河村勇輝が第2クォーターからコートに立った。レイカーズの八村塁が2023年1月にトレード加入して以来努力を重ね、チームにとって不可欠なロールプレーヤーとして成長してきたコートだ。1試合だけではあったが不出場に終わった試合での悔しさ、またパスを十分に得られず無得点に終わった試合も経験した。八村が前を見続けてきたその同じコートで、河村もまた必死の思いで前進しようとしていた。
「現時点で30分出る選手ではないので。5分だったり10分だったり、ゲームの中でのつなぎの部分でエナジーを持ってチームに活気を与えるというか、一つのルーズボールやリバウンドだったり、ワンポゼッションのディフェンス、オフェンスの正しいプレーだったり、そういったところで信頼を勝ち取っていく必要があります。簡単ではないですけど、今僕ができることは、5~10分を150パーセントの力でプレーすること」
同日朝のシュートアラウンドでそう話していた河村は、その思いをコートにぶつけるかのように全力でプレーした。第2クォーター開始からわずか40秒、ジョシュ・ギディーからパスを得ると、目の前で右手を高く伸ばし、ジャンプしたレブロン・ジェームズ越しに鮮やかなスウィッシュで3ポイントシュートを沈めてみせた。
「間違いなく自分を落ち着かせたシュートだった」と河村。その直後のレイカーズのポゼッションで、マタス・ブゼリスがレブロンから八村に向けたパスをスティールすると、河村は即座にダッシュ。パスを得て先頭を切ってゴールに向かい、バックボードにボールを当ててブゼリスのダンクをセットアップした。
「完全にフリーだったのでレイアップでもいいかなと思ったんですけど、後ろからダンカーの彼が走ってきていたので、一つ自分の見せどころでもあるなと思ってバックボードに当てて、ああいったアリウープを演出できて良かった」とうなずいた。
その約1分後、ディフェンスリバウンドを奪って速攻で突進してきたレブロンの前に立ちはだかった。レブロンはスピンムーブでさらに攻めてきたが、河村は飛ばされることもなく、レブロンのシュートをミスさせることに成功。第4クォーターには、レブロンを背にし、ゴールから遠ざけてギディーにリバウンドを取らせてみせた。

レブロンと対峙する場面も [写真]=Getty Images
「フィジカルはすごかったですけど、僕もいろいろな選手とNBAでやってきているので、そこはレブロンだからといって引けを取ることなく、NBAのトップ選手の一人という感覚で体を張ってディフェンスをしました」と河村。
3ポイントシュートについても「レブロンがいたから打ったとか、決めた後に“レブロン越し”だったという意識はあまりなかったですかね、正直。“マッチアップする相手の選手”というイメージで打って、入ったという感じです。もちろんマッチアップのレブロンの前で3ポイントを決められたことは、結果的にはうれしいですけど、試合中に何かを意識することは特になかったです」と平然と答えた。
昨夏のサマーリーグでブルズの一員として大活躍し、2Way契約を手に入れた。だがシーズン開幕を前に血栓で長期戦線離脱を余儀なくされ、解雇というかたちでロスターの座を失った。その後もシカゴに残ってブルズの練習施設でリハビリに励み、1月6日に再度2Way契約を得た。同15日にブルズ傘下のGリーグチーム、ウィンディシティ・ブルズ(以降ウィンディシティ)で今シーズンのデビューを果たし、ブルズでは同31日のマイアミ・ヒート戦でデビュー。この試合から4試合連続NBAでプレーし、1試合平均19分の出場で5得点4リバウンド5.5アシスト1.3スティールを記録した。その間、平均ターンオーバーも1本のみと、堂々のスタートだった。
だが、それで好転することはなかった。この4試合目の2月5日にトレード期限を迎えたブルズは、こぞってガードを獲得。もともとポイントガードは多かったが、現メンバーでもギディー、トレ・ジョーンズ、ジェイデン・アイビー、アンファニー・サイモンズ、コリン・セクストン、ロブ・ディリンハム、そして2Way契約の河村とマック・マクラングの8人がポイントガード、またはコンボガードと見なされている。
河村は、トレード期限後もNBAのアクティブロスターに登録される機会は得ているが、レイカーズ戦前までのNBA7試合で出場したのは3試合。3月5日の敵地フェニックス・サンズ戦では第1クォーターから出場チャンスを得て計9分52秒出場。打ったフィールドゴールは、3ポイントシュートの1本だけで無得点だったものの、2リバウンド、4アシストし、本人も「4ポゼッションぐらいは確実にチームのディフェンスの要になれたと思っているので、そこは必ずクリアにしていかないといけない。そしてやり続けないといけない部分」と満足感を示したが、次戦の敵地サクラメント・キングス戦では1分あまりの出場。その2日後のゴールデンステイト・ウォリアーズ戦では、9人しかプレー可能な選手がいなかった中、一人だけ出場機会を与えられなかった。
それだけに、レイカーズ戦を夜に控えて「今、チームの状況としてポイントガードが多いですし、ほとんどのポイントガードが今日も出場すると思うので、そうなると出場機会も簡単ではない」と河村。それでも「何が起こるか分からないので。ファウルトラブルだったり、何か緊急事態になった時に、またコーチがプレータイムを与えてくれた時には、しっかりとプレーして信頼を積み重ねていきたい」。「監督との信頼関係みたいなところは、試合に出てプレーするたびに深まっていると思っています」と前向きな姿勢は崩さなかった。
レイカーズ戦の翌日には、ロサンゼルス・クリッパーズと対戦したが、前日見せた活躍とは裏腹に、第1クォーター残り37秒から第2クォーター残り9分半までの3分7秒と、10点差をつけられた試合最後の27秒の出場に限られ、「2Wayの試されている選手というのは、一個のミスで交代させられることが当たり前の世界だと思っている。今日はオフェンスでうまくリズムが作れず、ディフェンスでは一本一対一のところでやられてしまったところが、後半出られなかった原因だと思います」と語った河村。「自分の立ち位置は、ワンポゼッションにかかっていると思うので、そこは生死をかけてというか、ワンポゼッション、1秒1秒に命をかけてという(気持ちで)プレーをしていかないといけない」と厳しい表情を見せた。
このクリッパーズ戦を最後に河村も同行したブルズは、9日間で5試合の西海岸遠征を終えた。悔しさと手応えとが日々変動して訪れる中で一つ河村を笑顔にしたことが、血栓による戦線離脱中、自らを励ましてくれた八村との再会、そして初めて同じコートに立ち、マッチアップもしたことだ。
「こんなにも早く塁さんとコートに立てるとは思っていなかったので、本当に素晴らしい時間でしたし、日本出身の選手として、世界最高峰の大きな舞台でマッチアップしてプレーできるということは、何よりも、僕からしたらすごく光栄な時間でした。大先輩でもあり、日本代表でも一緒にプレーしてきた仲間の一人でもあるので、すごくアメージングな時間でした」と感慨深げに話した。
八村は、河村が血栓を乗り越えてブルズと再度2Way契約を交わした際、「『シカゴでまた会いましょう』と言われたので、僕もすごく楽しみにしています」と話していた。1月末にレイカーズがシカゴを訪れた際には、河村はウィンディシティで遠征に出ており、それは叶わなかったが、ついに実現し「彼がやっていることは、日本人としてすごいことですし、誇りに思ってほしい。僕がやっていることとまた違うことをやっているので、僕には分からないですけど、その大変さというのは僕も分かるので、応援していきたい」とエールを送った。
試合中はポーカーフェイスのことが多い八村も、河村とマッチアップしたときは白い歯を見せ、「ミスマッチ!」と冗談で言うなど、英語でお互いに軽いトラッシュトークもしたと言う。

試合後に言葉を交わした八村と河村 [写真]=Getty Images
試合後には直接会っての交換ではなかったが、サインに加え、八村は「これから頑張るぞという話をしていたので、“頑張るぞ”(というような)」、河村は「“Keep going(頑張れ)”みたいな」メッセージをお互いに添えて、ユニフォームの交換もした。
八村自身も言うように、サイズに恵まれ、アメリカの大学で活躍し、ドラフト上位候補と注目されて1巡目全体の9位指名を受けた八村が、NBAで最も背が低いところから本契約を目指して挑戦する河村の気持ちをすべて理解できるわけではないかもしれない。
ただNBAにいる限り、どのような立場であっても常に苦労を乗り越えていかなければならないことに変わりはなく、そういった同じ世界にいるからこそ、八村は河村のすごさを誰よりも実感できるのだろう。
試合後、八村からもらったジャージーを手に「いただきました。濡れてます。すごく」と、にっこり笑った河村。
「小さい選手はファイトしないといけない。常にファイトし続けないと」―。
“大先輩かつ日本代表のチームチームメート”が、汗水を流してきたクリプト・ドットコム・アリーナでの経験は、河村にさらなる勇気を与えるものとなった。
文=山脇明子
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